宅配便がない生活を考えれらますか?

実家から、隣に住む祖母が倒れた、という電話が入ったのは6月の日曜日だった。

宅配便は家族の気持ちも届けてくれた

実家から、隣に住む祖母が倒れた、という電話が入ったのは6月の日曜日だった。
聞くと、金曜日に母が一緒に出かける予定で迎えにいったところ、風呂場の脱衣所で倒れていたとのこと。
もっと早く知らせてくれれば、週末に帰省したのに!と歯噛みしても遅く、とにかく今慌てて帰ってきてもしょうがないから、という家族の言葉を苦くかみ締めながら、日常の生活を続けた。

幸いなことに祖母は一命を取り留めた。しかし、その後に待っていたのは闘病と介護の生活…。
就職したてでまだ生活のペースもつかめていなかった私は、思うように帰ることもできず、それでも毎週、電話をかけ続けた。

待ちに待った盆休み、初めての長い帰省は祖母のためだけに帰るような気持ちだった。
しかし、半身が不自由になったにもかかわらず、祖母は思ったより元気だ。リハビリも始めているという。安堵の気持ちの後に、慣れぬ介護に疲れた母の顔が目に入ってきた。

夏休みはあっという間に終わり、後ろ髪を引かれる思いで東京に帰ったものの、なにやらやり残している気分で落ち着かない。ふと思いついて、母の好きな葡萄を駅前のデパートで買い求め、宅配便で送ってみた。
翌日、帰宅するとアパートの前で不在票を記入している宅配のお兄さんが。慌てて名乗りを上げて小包を受け取った。送り主は母で、宅配便の中身は桃だった。
実家は農家ではないが、果物が豊富な土地だ。母の好きなモノ…と考えたとき、私の目に浮かんだのは、この季節、実家の周りで匂いが目に見えるのではないかというくらい甘い芳香を放つ葡萄だったのだ。
そして、母は母で私を見送った後、八百屋の店先で土地の桃を見つけた、帰省中に食べさせなかった!と思い出し、慌てて求めて、私に送ってきたというわけ。

桃の箱の上には、祖母がリハビリにしているという、半紙に大きく書かれた絵手紙の葡萄が入っていた。
桃が来たよ、ありがとう、おばあちゃんの葡萄も見たよ、と電話すると、今葡萄がついたよ、ありがとう、と母の明るい声が返ってきた。私たちって同じようなこと考えるねぇ、親子だねぇ、とお互い笑いあった。

特急を使えば2時間の距離なのに、一度都会に出てしまえば、これほどまでに会えないものなのだ。
でも宅配便が、その家族の、気持ちまでのせて届けてくれたように思う。今でもあのときの桃と葡萄の行ったり来たりは家族の笑い話だ。笑い話なんだけど、話しながら時々、母の目には涙が光っている。


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